とある大学生の勉強メモ

バカでもいいじゃない,子供でもいいじゃない.

セーリングの上マークレイライン理論

 学生は動作やボートスピードなど目に見える能力にこだわりがちである。その方が華やかであるし、目に見えて成果が出るのでやりがいがある。しかし忘れてはいけないのが、安定した動作の次に求められるのがソフトウェアな部分だ。すなわちタックタイミングを決める頭脳である。

 上マークアプローチにおいて、クルーに最も求められる能力は安定した動作とレイラインの精度である。また帆走中のポテンシャル把握はミート艇とコースにおいて非常に重要である。ミートは言わずもがな、ポテンシャルが見えればコースで大失敗がなくなる。要するに反対海面が伸びて、目の前にスーパーブローorヘダーウインドの兆候がなければ、すぐさま反対艇団に合わせるという手法が取れる。当然気付くのが早ければ早いほど順位は安定する。

 今回はそもそもポテンシャルとは何かを図式で見て、艇のどの部分を見るのが最も把握しやすいかを検討するとしよう。今回はレイラインについて考察を行う。後日やる気が出ればポテンシャル把握も行う。

 

 マークと自艇のなす角 クルーヘルムスの視線の違い

 小難しいが、人は自身からの対象までの距離の測定に運動視差と両眼視差を用いる。遠くのマークまでの距離と角度を測ろうと思えば運動視差を用いる事になる。

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  しかし、海の上では他にマーク以外に動いてくれる視野内の物体が少ないので、距離と角度を測りづらいのである。もし本当かどうか確かめたかったら、Unityで真っ白な背景の中にスクエアオブジェクトを配置してカメラを移動させて、HMDでオブジェクトを見てみると良い。自分が動いているのかどうかさえ、よく分からない。

 現実はある程度視界にオブジェクトがあるので、どれだけ視界のマークが動いているかの判断ができている。大切な事はこの運動視差を用いて、マークまでの距離と自艇のなす角を把握しているという点だ。

 ヨットのガンネルと垂直方向を見る事は非常に簡単である(手を伸ばせば良い)。しかしそれではレイラインに乗らない事が多々ある。それが次の図である。

 

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 クルー目線では、タック時の艇の回転中心より前側に位置する。それ故にクルーから見て90度では足りない。仮にクルーヘルムス間がd[m]だとすると、マークと艇の距離l[m]に対して次の図の関係になる。

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  クルーヘルムス間を1mとして、マークからの距離l[m]を変数とすると、arctan(1/l)のグラフは、

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(縦軸:角度のずれ[deg],横軸:マークと艇の距離[m])

 となるので、10m程の近い場所では5度以上のずれが発生する。逆に遠くなればなるほどずれは小さい。つまり近い場合はヘルムスの位置の方が正確なレイランを見ることができる。よってマークに3艇身(つまりゾーン)内ではヘルムスがレイラインを決定した方が精度が遥かに良い。レイラインは全てクルーの責任という人が学生では見かけるが、近い場合は圧倒的にヘルムスの方が精度が良くなるのである。はいQED(笑)。

いつレイラインタックを狙うのか それとも2タックか

 では、マークからの距離がどの程度であればレイラインタックを狙って良いのだろうか。それを考える前に、どうしてマークに近ければレイラインに乗せやすいのかを考えてみよう。

 そこで下の図である。

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 これは、どうしてポートアプローチをすると、オーバーセールが少なくなるのかを説明する図である。レイラインを決める際、セイラーは自艇とマークとの角度によって決定する。角度90度でレイラインタックができる事が望ましいが、全ての人間がジャスト90度を狙えるわけではなく、必ず誤差ε[deg]が存在してしまう。

 上の図を見れば分かるように、マークに近ければ近いほど、角度がどんどん変化する。逆に遠ければ角度の変化量は小さい。艇のレイラインタック意思決定の角度閾値90+ε[deg]を越えた時、セイラーはタックの判断を行う。その時に近い方が図のy軸方向のオーバーセール量が少ないのだ。近い方がオーバーセールを減らせる。ただマークに寄せる行為はタックの回数を2回増やす事に繋がる。ここにトレードオフの関係があるので、定量化してみよう。

 以下風域3条件

風速[m/s] 艇速[m/s] 2タック損失[m]
2~3m/s 2 6
4~6m/s 3 9
7m/s以上 4 12

 (参考 470 級の帆走性能解析)

 また

  • マークと自艇の距離 l[m]
  • マークと自艇のなす角(艇視点の観測値) θ[deg]
  • レイラインからのオーバーセール量 d[m] 
  • レイライン精度 ε[deg]

を用意しておく。そして、セイラーのレイライン意思決定は

if θ\gt90+ε

 tacking;

としておく。

するとオーバーセール量d[m]は

d=l*tan(θ)

である。

計算結果は以下の通りである。

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  εが5度というのはかなり熟練したセーラーである。10度などは僕程度の精度の持ち主だと思う。15度もずれる人はビギナーなセイラーであろう。色付けした所は各風域で2タック以上の損失を上回るオーバーセール量d[m]である。要するに僕のような中級セーラーは軽風なら40m以上、中風なら60m以上、強風なら70m以上、マークから距離がある場合、オーバーセールを防ぐためのマークに寄せるタックをした方が最短距離を走れる期待値が高まるという事である。逆にマークまでの距離が50m程度ならば、ジャスト風域でレイラインに乗せられる実力はつけておきたい。

まとめ

今回は如何にしてオーバーセールを防ぐのかを考察した。

クルーヘルムスでマークへの角度が違うので、マーク際ではヘルムスの方がタックタイミングを決めるべきである。それに細かな秒単位のハンドリングもあるので、ヘルムスがリードした方が良い。

オーバーセールを減らす為に2タックしてマークに寄せるか、それとも少しのオーバーセールを許容してレイランに乗せるかという問題を解いた。各艇ごとにレイラインのよむ精度をεとして、条件式を解いた。各人でεは異なるが、各風域で表の色付いた距離以上マークから離れている場合は、マークに寄せるタックをしても損失がない事を導いた。

 

今回はこれで終わりです。お疲れ様でした。