憧れとは ~新しい辞書を作ろう~
辞書に載っていない言葉の意味を深掘りしていこうと思います.今回のテーマは「憧れ」,意味を特に考えずシンプルに因数分解すると"Want to do ~"や"Want to be ~"になるかと思います."~"はかっこよく対象と言い換えます.憧れに関して村上春樹もノルウェイの森で,セフレ作りが趣味な永沢先輩の恋人であるハツミさんに対して,主人公が
彼女のもたらした震えは(中略)少年期の憧憬のようなものであったのだ.(中略)ハツミさんが揺り動かしたのは僕の中に長い間眠っていた<僕自身の一部>であったのだ. ノルウェイの森㊦
と表現しており,それ以上憧れに関する説明はなくハツミさんが自殺する物語に繋がります.僕自身の一部,というところに引っかかりを覚えながらも,ロジカルに憧れについて分析してみましょう.
今までためておいた語彙辞典はこっち amakazeryu.hatenablog.com
憧れの因数からwantについて考えます.wantと似た概念としてlikeがあります.likeの本質はagain(もう一度)であり,Likeを成立させるにはもう一度行うというのが必要条件です.もう一度行いたい(want to do it again)となれば,likeと同値になります.大丈夫ですね.意味空間Mにおける意味結合演算子●を用いて,
ここでlikeと憧れの明確な違いはagainがあるかどうかです.すなわち憧れは一度も経験したことがない対象にwantするののであり,likeのように過去に実経験があるわけではありません.図示すると,
againやwantのようにそれ以上分解できない要素を元などと言います(知らんけど).となると憧れは実は"want to do ~"(ただし”~”は未経験)なわけです.ノルウェイの森に戻ると,主人公は,他の女性と寝てばかりの恋人を思い続けるハツミさんのような一途さ(?)こそあるべき恋愛だと,経験がないながらも少年期の時は思っていました.しかしその認識は経験と共に失われます.過去の認識が自身の一部ということなのでしょうが,「経験がないのに自身の一部なんかい」と突っ込まれそうでイマイチ分かりづらいですね.ここはしっくりこない人が多そうです.当時(2004年)は憧れに関する意味分解が進んでいなかったので,伝わりづらい表現になったのでしょう.
また憧れは百聞は一見に如かずを体現している言葉にも見えます.自分で経験して積んだ情報ではなく,伝達された情報のみで頭の中にイメージを作り上げてしまい,しばしば現実との乖離を生みます.
まとめ
憧れはwantとneverの意味結合.wantには経験のあることをしたい場合と未経験なことをしたい場合の二つがあり,その違いがlikeと憧れ.なぜ未経験なのにしたいと思うのかの解明がこれからの課題.それと単位ベクトルとしてcan(できるできない)の軸を,wantと直行ベクトルとして扱ってよいのかの検討も必要.林修がナチュラルに直行で扱っていたけど,それって本当に正しいのでしょうか.正しいであってほしいけど.