とある大学生の勉強メモ

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セーリングのコース理論 タクティクス編 戦術と戦略の違いから

前置き:コース理論における2つの視点

コースを勉強するといっても実は二通りある.ずばりストラテジー(戦略)とタクティクス(戦術)である.ストラテジーとは戦略を意味し,マクロな視点からコースを組み立てることを指す.逆にタクティクスとは戦術を意味し,ミクロな要所要所の視点でコースを組み立てることを指す.また他艇という言葉を使う際に,ストラテジーでは往々にして艇団を想定するが,タクティクスでは艇一つないし二つ程度を想定する. f:id:amakazeryu:20200907151926p:plain

まず最も大切なこととして「タクティクスはストラテジーに勝てない」ということを断っておく.戦略でまさっていたのに戦術で負けたというのはコードギアスのスザク&ランスロットほどのぶっ壊れ戦術兵器が登場しない限りあり得ない.またぶっ壊れ性能がある敵とは基本的に戦わないでいいと思う.

さてストラテジーでは「どちらの海面にいくのか?」や「アプローチはどちらからするのか?」といったスタート前に組み立てる要素が多い.スタート前に「ブローがどちらにあるのか?」は当然ペアで協議すべき内容だろう.また当日の海上における観察だけでなく,陸にいるときの天候の予想やパターンの把握なども必要になってくる.ストラテジーのほとんどは海の上ではなく,陸で完結することの方が多い.そしてこれは例えば予選突破がかかったレガッタなどで,どの艇をマークするのかといったことも含まれる.従ってストラテジーとは「スタート前に決まっている予定のコース」と言い替えてもよい. ストラテジーを組み立てるのは基本的にスタート前,二上ならば一下ランニングの暇な時間帯である.決してクローズ帆走中にストラテジーは決まらない.常にスタート前あるいはランニング中に次のクローズのストラテジーを組み立てる癖をつけてほしい.

上記を理解した上でさらに順位を一つ一つ伸ばそうという考え方がタクティクスである.一点で泣くことはよくある.特に実力が伯仲するときは大きなコースミスが出にくく,タクティクスで差が出ることが多い.小さな勝利を積み上げていくのは本当に大切だ.しかしウインドストラテジーなどを見てもセーリングのタクティクスを言語化している文書はほとんどない.これはうまい人は意識せずに行っている代表格だからだと思う.「こういう時はこうする」というのが何度とないレース経験から導かれているのだ.しかし学生の時間は有限で,レース経験も稼げない.そこで今回知識化しようという試みを行いたい.

・クローズタクティクス

代表的なクローズタクティクスを紹介する.中級者ならだれでも知っているがおさらいとして見てほしい.

1.リーバウ

クローズのタクティクスとして最も有名なのがリーバウ(下受け)タックだろう.並んで走る際に,先行している下の艇が風をセールでベンドさせることで,後ろの艇がヘダーの風を受けることを利用している.まず最初に知っておくべき戦術だ.

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2.ドライブ⇒ブランケット

これも基本的な戦術.470は基本的にドライブメインな艇種だと思うが,特に潰したい下艇がいるときはドライブで被せていくという戦術がある.これは普通に帆走していても起こることなので特段戦術感はない.行きがかり上被せてしまうことの方が多い.通称ごめんなさいね~ブランケット. f:id:amakazeryu:20200907145052p:plain

3.ピンチング⇒リーバウ

スタート直後やレイライン,そして逃げのタックを打ちたくないときに出てくる.ドライブメインな470だが,あえてピンチングして上艇を潰さなくては自艇がブランケットポジションに追いやられてしまうことが多い.ボディアクションと合わせることで速度を落とさず角度だけ稼ぐこともできるので練習しよう.通称上殺し.なんかかっこいい.

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4.上マークアプローチでのドライブ⇒ゾーン内タックへのプロテスト

これも学生の大会だとよく見かける.上マークにオーバーセール状態でフェッチングしている際,余裕をもってドライブ目でアプローチし,タックした相手艇をラフして避けて(avoid)プロテストコール.ゾーン内でタックした艇は後続艇をラフさせてはいけないルールを逆手に用いる手段だ.ジャッジの人曰く95%でスタボ艇が勝つというぐらい注意しなくてはいけない審問案件なのでポートアプローチ時は注意しなくてはならない. f:id:amakazeryu:20200907150538p:plain

箸休め

以上4つは基本的なのでほとんどの中級セーラーは知っていると思う.ほかにもミートするポート艇に「前通っていいよコール」やサンドイッチ下受けなどあるがとりあえずクローズはこのあたりでおしまいにしたい.本番はランニングである.なぜかランニングになると「戦術なんてブランケット以外ないよ」となる人が多い.全くの的外れである.ランニングの方が戦術でやることは多い.そして上手い人はこの戦術を意識下で行ってしまうので,経験者とランニングで差がついてしまうわけだ.

・ランニングタクティクス

とはいえ一にも二にもブランケットである.そしてブランケットを気にせず安心できるポジションはクリアアヘッド・アスターンしかない.絶対にクリアアヘッド・アスターンになるまで他艇へのアテンションを下げてはいけない.これを基本としてほしい.

1.ブランケット回避(avoid)のジャイブ

ランニングのブランケットを被せる旨みを覚えた中級者は,上り目で被せてくることが非常に多い.そのときに相手が上ったタイミング(あるいは自分も少し上って相手にさらに上らせることもある)で,ジャイブすることで「はい,さようならー」とする戦術である.VMGを稼げない上りをしている艇はジャイブしても絶対にこちらをブランケットに入れられない.加えて相手艇に対してポテンシャルも獲得できるというブランケット症候群(ブランケットを入れて抜きたくて仕方のない人たち)対策にはうってつけの戦術である.通称さよならジャイブ. f:id:amakazeryu:20200907155703p:plain

2.権利主張⇒下突破

下から相手艇をまず突き上げる.そのあとパンピングによってサーフィングして速度を得て波の力でブランケットを外していく戦術.同じ艇種で何もせず下突破はほぼできない.そこで相手を上らせることでまずポテンシャルを稼ぎ,ブランケットコーンの幅を小さくする.最小限のブランケット領域を帆走する必要はあるので,風の力よりもその時間では波の力を有効活用する.多少無理やりにでもサーフィングすればブランケット内でも速度を維持できるため下突破を行えるのだ.わざと上らせることで相手艇に対してポテンシャルを稼ぎジャイブする戦術もある(筆者もよくやられました涙).通称突き上げ下突破. f:id:amakazeryu:20200907155142p:plain

終わりに

このほかにもマークアプローチの際に3万個ぐらい戦術があるのだが,正確なレイラインの読みを必要とするのでまた後日にしたい.クローズでも残り一万個ぐらい戦術があるが,お声があれば出していきたいと思う.それでは本日は以上です,お疲れさまでした.