とある大学生の勉強メモ

Python, C#, UWP, WPF, 心理実験関連の開発備忘録

470の走らせ方 理論と実践

 故増山氏の遺作となった「翔べ! 470」*1に記載された内容を理解し実践している人は未だそれ程多くないと思う。二次試験物理8割(自慢)の学生引退セーラーが理論からどのように実践に繋げたか、軽く述べてみようと思う。

 ヨットはボートスピードで勝敗が決するといっていいほど、ボートスピードが大きな勝因になる風域が多い。ではそのボートスピードをいかにして出すのか。人間は場合分けした方が理解しやすい生き物なので、風域を大雑把に分けてそれぞれで解説していく。


・オーバーパワーのクローズ

真っ先に磨きたい風域だが焦らず三段階ぐらいでレベルアップしよう。

一段階:ヒールキープ・メイントリム量少なめ。テルテールを常に流す意識でメイントリムの量は少なくなるように心掛けよう。常にヒールを一定にする気持ちが大切だ。チームで一番下で走ってもリーフェイして離れていかなくなれば、次の段階に移行しよう。

二段階:ブローでベアしてメインを出し、加速したタイミングで素早くメインを引き込みながらラフすることを基本とする。ラルでは逆にメインを少し詰めてスピードが落ち始めたらそれに合わせてベアしながらメインを出す。ブローはないけどスピードがなくなったら、メインをパンピング気味に引き込んでフルハイク・フルトラピーズでベアすればセミレーニングしやすい(パンピングベアと呼ぶ)。スピードを維持できるようになったらセンターを上げられる。センターを上げたらウェザーが減る。スピードがなくなるとリーフェイするので、センターを上げたらもう後はスピードを切らさないことに専念する。また20度までのヒールならば許容できる。艇はヒールした方が復元モーメントを稼げるしよりメインが引けている。基本的にヒール0~10度ぐらいで走り、スピードがなくなればパンピングベアして20度ぐらいまでのヒールを許容しつつスピードを出すイメージ。20度までならヒールはメインを出さずにボディロッキングで起こした方が良い。6ノット以下のスピードになれば相対風向・センター有効面積・ヘルム・ヒール、すべてが破綻する。

三段階:スピードがある状態で少し角度を稼ぐ気持ちを持つ。スピードが切れる前に必ずベアする。これとは別にピンチングとドライブの使い分けをできるようになり、スタート・マーク際でクローズの有利なポジションを得る方法を手に入れること。

 

・ジャスト付近クローズ

 基本的にメインは出さないこと。出さずに反対デッキが海面に近づくぐらいまではヒールを許容し、ボディアクションで起こした方がいい。クルーヘルムスで同時にロックすれば上れる。したがって8ノットまではきっちり起こせるように体重をつけよう。オスカー旗が上がればボディロッキングとパンピングベアをすればいい。スピードがなくなればパンピングベア。ロメオポジティブなら単にベア。

 

・アンダークローズ

当たり前だが船を揺らさないことと水線長を沈めるように前乗り(470のナックル上側が沈むところまで)。キープフラット・ニュートラルヘルムが理想。そのようにチューニングとヒールトリムをしよう。スピードがなくなればメインを若干緩めてベアしよう。

 

・中デッキクローズ

メインを流す事と角度に注力。スピードがなくなればオーバーヒールをつけてセールシェイプを保ち、起こしながらワンロック入れよう。フラット意識だがスピードがなくなりやパワーが切れがちなので(艇のエネルギーが小さくなるので)、オーバーヒールがほかの風域よりも多くなりがちである。メインはツイストさせよう。

 

・ロメオ下ランニング

ラフベアは必ずヒールをつけてロックを入れるキネティクスをしよう。吹かれた事はない。過度にすると目を付けられる。波・ブローでもキネティクスをガンガン入れよう。マストトップにアングルマーキングをつけ、波のないコンディションならばトップの風見130~140度(相対風向)まで上る。

 

・オスカー下ランニング

トップ風見150度まで上れ。波が来たらオーバーヒールになるので、アンヒールまで起こしてパンピングベアすればサーフィングできる。基本上ってスピードがある状態を維持し、波で一気に角度を稼ぐイメージでいけばいい。これができれば20位以下は取らなくなる。西宮の汚い波は全て突っ切った方が早いので突っ切れるまで上った方が良い。逆に綺麗な波の海面では一つ一つ丁寧にサーフィングしていった方が良い。

ピンパンピングのコツは風の塊を持ってくる感じだ。上下同じくらい引いてパンピングの抗力を正面方向に出す事。パンピングの引き具合が運動視差にそのまま化ける具合だと最高だ。

 

・オスカー下リーチング

ラフすればオーバーヒールと共にスピードが手に入る。ラフしてプレーニングをするならばラフベアを繰り返しながら合わせてメイントリム。大事なのはラフ後ヒールが大きく入る前にベアすること。メインを見て合わせるのではなく、当て推量で引き具合を調整すること。ティラーとメインを必ず同時に動かすことだ。それによって常にプレーニングをキープする。クルーもそれを理解してスピントリム、ベアの時に出してラフの時に引く。ブローでは即ベア、メイン出し、スピン出し→スピードUPと共に両方シートを引き込む。プレーニングに入らないならクルーは前へいき、ラフかブローでプレーニングできるなら後ろにいく。

 

・ロメオ下リーチング

ティラーは極力使わず静かにスピードをつける事を意識する。トラベラーをがん引きしてツイストさせ、ジヴ・スピンの裏風を活用する。メインはシバーする手前まで引き込み、分からなくなれば風見に平行まで出す(風見平行はたいていちょっとシバーするぐらい)。ジヴもスロットルを意識して出す。キープフラット、ヘルムはセンターで調節が理想的である。スピンのリーが強すぎるならオーバーヒールをつけよう。


・タック:ティラーの突き始めから終わりまでをくらいの速さで。最初は遅く、後になるにつれて早くが理想。当然ラフ中はメインを引き込み、タック中はベアを急ぐ。

・ジャイブ:ロメオ下ぐらいの風なら煽りましょう。ブームが返ったらすぐスピンポールを入れ替えられるようにヘルムスはスピンシートを持ちましょう。まだできてないよね阪大。ジャイブを打ちたくなるくらいまで動作練習しよう。

 

練習で磨くのはスピード感覚だ。今早いのか遅いのか常にクルーヘルムスで言い合った方が練習効率は上がる。

(また多分更新します)

組織論

 人間はポリス的動物であると古代の哲人は言った。人は集団で生きる動物であり、それは子孫繫栄や利潤という点のみならず、人々の幸福感にまで相関があるのだという事が近年明らかになってきた。幸福のクラスター化といって、小さな集団でみると幸福な人の周りには幸福な人が多く、共感は伝染していくという事が分かっている*1。幸せは身近に伝染していくのだ。そして集団であれば感じられる幸福感も高まりやすいという事も言われている。

 しかし集団は孤立を生む。孤立というのは一人でいることではなく、集団の中で外れる事である。集団がなければ孤立はない。加えて資本主義下の企業や旧態依然の体育会系組織では組織力学を以て強制的な統制が行われている事も少なくない。上からの圧力によって強制的な統制をしても心は一つにならない。論理的に間違いであるとしても組織をまとめる為に権力を行使する場面は出てしまう。そしてその強制が構成員の不満を生み出し、個人レベルの不幸が溜まってしまう事がある。

 以上のように組織とは分業によって大きな仕事ができたり幸福感の増加といった良い面の反対に無意識も含めた孤立や権力の乱暴が度々起こってしまう。これらの問題に対して組織とはどうあるべきかという組織論を組み立て、これらの諸問題に対して一定の解決策を述べてみようと思う。

 

1 Well-beingとは

 ミクロ哲学に於いて幸福は個人の中で閉じた概念である。個々人が全員自分の中で幸福感を感じる事が出来れば、各々は人生を満足して終わる事が出来る。この哲学の中では諸個人の価値とは如何にその個人が幸福感を得ているのかに由来する。対してマクロ哲学においては集団の幸福度が優先される。集団全体の幸福度上昇が結果として個人の幸福度に直結するという考え方である。集団の価値とは集団に属する個人の幸福度の総和となる。社会を構築する上でマクロ哲学的思考を持つ事は非常に都合がいい。筆者自身も哲学を語る時にどちらの考え方になるのかは場合によって分ける必要があると考えている。

 筆者が見てきた多くの人は自分の為に果たして生きているのかと思う事がある。常に周りや組織の為にといって自分を殺している事はないだろうか。そして高度経済成長期から続く日本人の自分より集団を優先する心理への美徳感は国民性とまで言っていいかもしれない。しかし忘れてはいけないのが社会など存在しないという事だ。みんなというのは概念に過ぎない。英語なら単数形。あなたは概念の為に生きているのか、と問いたい。きっとそうではないはずで、多くの人は自身や大切な人の為に生きていると思う。それがどういうわけか時折見せる「社会の為に」「みんなの事を」「チームの為に」という風に言われてしまう*2

 ここで一つ問いたい。それは本当にその組織に属する各人の幸せになっているのか、と。

 

2 組織の存在意義 

 基本的に組織の存在意義とは分業・集団による生産性の向上と共感による幸福感の獲得にある。一人ではできない事も多人数になればできるという事は多くある。そしてその組織のOB・OGの支援もまた大きな力になる。加えて身近に人がいる事によるモチベーション維持など教育的効果も挙げられる。そして何より他人と分かち合う勝利や成功は格別であるというのは言うまでもない。かくいう筆者もクラブに属してからそれらのメリットは大いに感じてきた。

 だが最近になって形作りを重視する統制やモチベーションケアの放棄などにより退部者も増えてきた。人数が増えると集団の中に集団が生まれる。必ず一つになり切れない人数上限が組織には存在するのだ。集団の中にまたいくつかの集団が生まれた時、問題となるのは自分達中心主義だ。彼らはいつも自分達こそ皆の為にやっており、少数の集団は皆の為に動いてほしいという考え方だ。僕は幼少期にこの内輪の外にいた。そこでは自分達というマジョリティの安心感と正義感の下、孤立した人が悪いという価値観があった。

 正義詰まる所自分達が正しいと感情的に判断する事は大きな間違いである。なぜなら正誤という概念は常に論理の中で閉じており、感情的に正誤を語ってもただの感情であり常にその正誤は不安定である。不安定なものを正しいかどうかの土俵にあげても議論が平行線になるだけである。自分達が正義という考えが感情によって生み出された時、人は争いを生んでしまう。その結果が世界大戦を始めとした戦争の悲劇を生んでしまった。筆者は戦争によって哀しみと憎しみに世界が埋もれる事を否定する立場である。故に論理外の中で正しい・正しくないという概念を持つ事は反対であるし、そもそも変動しがちな真理値を持つ判断は論理学上否定されるものだと考えている。

  なぜ少数側が悪いのか。そこに論理性は存在しない。集団を一つにする為に強制的な統制を行ってしまえばむしろ心はバラバラになってしまい、個人の幸福感も低下してしまう。例えば自分達は最後の大会が終わっているにも関わらず、もう一つの同期のチームは次の大会に進出したので、自分達もまだ現役続行だと言われたとする。引退の定義は確かに都合よく定義され得るが、

スポーツの世界において引退というのは選手としての身分を離れる事である。

 選手とはつまり試合に出る人である。もう試合に出る可能性がゼロになった者を引退したといい、それゆえの引退試合であり、これが論理的な解答である。理論的には最後の大会終了と同時に心は現役引退であるにも関わらず、組織統一の名目の下、身体は現役続行となる。心と体の捻じれ状態の中、組織力学によって強制を行ってしまうと当然不幸感を覚えてしまう。とはいえ組織として統一感を出す事は不可欠である。この問題に対してどのように解決をすれば良いのか。ここが非常に重要であり、多くの人を悩ませる点である。個人の不幸をなるべく回避しながら論理的矛盾を孕む組織統一を如何にして行うのか。筆者は一つの解決策を本日持ってきた。

 

3 無意識な内の統一

 日本にいて税金の使われ方にキレたから日本を出ていく、という人は少ない。実際BTCで億り人になった人が海外逃亡したが、多くの人は怒っていない。なぜか、知らないからである。無知は幸せとはよく言ったもので、知らなければ人は怒る事などできない。舛添氏の問題も似たような事は他の人がいくらでも行っていたが、メディアに出ず周知されなければ問題にはならない。問題は問題にあがらない限り問題にはならない。

 科学的な刺激方法にサブリミナルなやり方がある。サブリミナルコマーシャルというのが有名でTVcmのコンマオーダーの秒数異なる映像を一瞬はさみ、視聴者はその画像を認知できないにも関わらず広告の効果が強まるという手法がある。選挙などで何度も名前を連呼していると聞いていないにも関わらず脳内に記憶されて選挙に影響がでるという事がある。「カルピー、ポテトチップス!」という文字を見れば否が応でもリズムが思い出される。そういった非意識下で人は実は多くの判断を行っている*3

 ここでいう解決とは無意識な統制を執る事によって構成員の幸福の担保を図りつつ、実際には組織をまとめるという事だ。意識できなければ不幸を感じる事はない。秘密保護法も後世でどのような評価を受けるか分からないが、個人的には良い印象を持っている。無知に幸せを受けられるのであればそれはミクロ哲学において良い事だからである。そして組織統一においても大切な事は無意識な統制をしていく事である。

 サブリミナルな情報提示はスプラリミナルな情報提示に対してストレス指数を低く保ったまま、効果をあげる事が確認されている*4。うわさや本人の意図によって情報を得た時と上から強制的に伝えられた情報とではストレス指数に大きな差があるだろうという事は経験的にも分かる。強制的な統制はされる側が強制と感じた瞬間不幸を生んでしまう。加えて上記の例のように論理的整合性が取れない事もしばしばある。この時大切なのはその点に関して統制する対象を無意識にさせる事である。そうすればファジーなまま時間が消化される。逆に論理的矛盾を含んだまま明らかな強制をしてしまうと不幸感と心身の捻じれを発生させてしまう。

 権力を持つ者は無意識なうちの統治という手法も覚えておくといいだろう。そして常に構成員に(自分が支払う対価)=<(自分が受ける報酬)という状態を維持する事である。報酬は常に利潤のみならず幸福感も含まれる。そして対価とは疲労や時間も含まれる。これが組織運営に役立つことを祈るばかりである。

*1:ヒト社会における大規模協力の礎としての共感性の役割 村田藍子

*2:なぜ世界は存在しないのか Markus Gabriel 2018

*3:サブリミナル・マインド 下條信輔

*4:意思決定における精神的作業負荷を軽減する情報提示手法 水上

自律神経系と緊張感について

はじめにぃ~

 最近ラボの実験で心拍を計測する事がありました。そこで取ったデータをもとに心拍変動の周波数成分(LFとHF)を算出して交感・副交感神経の活動を見る事ができたのですが面白い結果だったので残す事に。

 普段からあんまり緊張感がないやつと言われがちなのですが、確かに振り返ってみて緊張したという場面が高校ぐらいからほとんどありません。高校2年で特進コース全員の前でプレゼンした時は多分緊張してましたけど、それよりも楽しんだ記憶の方が大きいです。クラブの大事なレースですら緊張はほとんど感じた事がないです。周りがなぜ緊張できるのか疑問でした。その謎が医学的な知見で説明できたのです。

 [目次]

  1. 自律神経系について
  2. 心電図の解析
  3. 得られた知見

1 自律神経系について

 自律神経系というのは交感神経と副交感神経の分ける事ができ、主に昼間に活発なのが交感神経であり、夜になるにつれて副交感神経が活発になりやすいです。昼間の働いている時や授業を受けている際などに交感神経が、夜のリラックスしている時に副交感神経が働きます。要するに活動している時は交感神経が活発で、休息時に副交感神経が活発になるのです。

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2 心電図の解析

 前提知識として心電図の見方を紹介します。

 心電図でぴょこっと強い鼓動があると思いますが、これが皆さんも手の付け根や心臓、首回りの動脈などを触れば感じる事の出来る心拍です。これをR波といい、このR波の間隔をR-R間隔(R R interbal)なんて言います。ただの心臓の鼓動の間隔ですね。このRRIの変化は瞬間の心拍数の変化とも読み解けます。心拍変動が自律神経系の指標として妥当性を確保している点については数多くの研究報告があります。

 下図のようにRRIは変化(ゆらぎと言う)しますが、このゆらぎには特徴的なゆらぎがあります。

 一つは0.1Hz帯で起こる血管内の血圧のフィードバック調節に伴うゆらぎです。これは交感神経・副交感神経の変化に由来するものです。低周波成分であり、LFといいます。

 もう一つは呼吸の変化によるゆらぎです。俗に呼吸性洞性不整脈(RSA)と言います。これは副交感神経の指標として用いられます。高周波成分であり、HFと言います。

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 心拍変動のデータは不等間隔であるので、等間隔の時系列となるように補間を行う必要があります。用いる補間方法で結果が異なる事がある点には注意しましょう。今回はスプライン補間を用いました。 

 とりあえず僕の心電図をばっと出します。

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 どうやら不整脈もちっぽい(笑)

 そして周波数解析したものが下になります。

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 実験の時なので、いくつかデータがあります。どれを見ても正直いいんですが、LF/HFの値に注目しましょう。これはバランス値と言われ2未満をだいたい基準値とするそうです。ただし計測方法・補間方法などでかなり変わってくるのであんまり盲信できません。バランス値が高くなるほどLFが大きく、交感神経が活発であるといえます。逆にバランス値が小さければHFが大きく、ともすれば副交感神経が活発という事になります。LF/HFが低いほどリラックス状態に近く、高いほど緊張状態に近いものとなります。これをストレス指数として用いる医療機関もあるとかないとか。

 なぜか僕は同じ研究室の方と比べて以上にバランス値が小さいらしいです。要するに副交感神経がいつも活発でリラックスムードだという事です。確かにいつものほほんと楽観的に生きていますが、数値になって出てくるとは面白いものです。

 

3 得られた知見

 今回は自律神経系について勉強した事を少しまとめました。心電図からLF/HFを導く手順や補間方法などは順次勉強していきます。今回は取り急ぎ結果だけを載せました。これが私が勉強するモチベーション向上につながる事を願って。

 

 

 

セーリングのコース理論(海風)

 学生選手としては99%引退した者が夏の最後の大会で見出したコース理論に関して述べる。とりあえずこれやっとけ感がすごいが、様々なセーラーの迷信を科学的根拠でフルボッコにするというものである。

 セーリングのコースを統計と三角関数で読み解く。タック一回は1艇身つまり約5mの損失とか設定しておく。基本的に西宮ヨットハーバーで勝つ方法を述べる。とはいっても大体海風と陸風に大別されるからとりあえず西宮を攻略するのが先決である。その後にうねりとか潮とかその海・湖の特徴を足していけばいいと思う。

 とりあえず南風(海風)に関して書きます。北風(陸風)は後日書きます。お楽しみに。

・南風

 南風なんてボートスピードだよ、という選手は多い。実際ボートスピードが他艇より優れていれば格段に勝ちやすい。スタートを決めてそのままスピードでゲインした後は艇団をカバーしながら走り、一上を回って仲良く直線リーチングを決めれば2マーク回航順位がそのままリザルトになる。レース一か月前にそう言い訳するのはいい。しかし当日になってスピードがないから勝てませんでは何をやってきたんだとなる。一か月練習してもセンスがジュニアには負けるのでなどと言い訳しだしたら100%勝てない。当日に持っているカードで如何にして勝つのか、これが重要なのである。

 南風(海風)に関しては基本的に4つに大別される。それは快晴で地上の上昇気流によって吹く場合か前線・気圧配置による傾度風なのか。そしてフリート全体にブローがあるのか、細々とブローが点在するのかの2要素からなる4通りだ。

  1. 快晴&フリート全体にブロー
  2. 快晴&ブロー点在のアンダーコンディション
  3. 曇り&フリート全体にブロー
  4. 曇り&ブロー点在のアンダーコンディション

 それぞれ考えていこう。今回考えるうえで忘れてはいけない事が一つある。それは上田真聖氏も仰っていた通り、風・マーク・自艇という要素で考える事だ。実際のレースでは他艇がいるので戦術が発生する。しかしコースで重要なのは如何にして他艇を排除して風の動向に集中できるかだと思う。他艇を気にする時間が増えれば増えるほど3要素以外の事を考えなくてはならず、ともすれば最適コースを引きづらくなる団体戦などで初日・二日目などは特に他艇を気にせず走れる方が経験則からしても結果的には良い順位になるはずだ。

 これから話すことは僕の経験や直感・感想ではなく全て理論である。疑うという事は三角関数を疑うという事であり、それは全く意味のない話である。正しいか正しくないかという議論は常に論理の中に閉じているという事をお忘れなきよう願いたい。

 

1.快晴&フリート全体にブロー

 この時急に風は振らない。振るとしてもじっくり振っていく。基本的にフリートのどこも風の強さは同じ。コースなど果たして必要なのか。

 風向は太陽を追う、という基本原理の下、先行研究となる先代松本氏のコースを参考にすればいいと思う。吹き始めの200~210はポートレーラインでリフトが入るので左伸ばしが有効である。スタート後は「前通っていいよー」を連呼しよう。

 ここで焦点となるのはどこまで伸ばすかだろう。9の字コースを取るにあたってここが一番のポイントなので数学的に解説する。

 下図は上りレグの図である。それぞれスタートして端に7割~10割だした時を示している。よく端に出す事が危険な理由として風が振った時に艇団に対して大損する事とそもそも10割出してしまうと自分側に振ったとしてもオーバーセールになり損をするという事が挙げられる。では実際どこまで出せばオーバーセールするのだろうか。

 

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 オーバーセールする危険性は、

 x = arctan(1-p);

if (s \le x) safe;

else if (s \geq x) over-sailing

端に出す割合を p(0 \le p \le 1)、風向変化 s[deg]

 である。機械でもできる簡単な判断基準に乗っ取ればよい。

 さて上図の右に7割出した時を見よう。スタート時の風向に対してarctan(1-7/10)以上の風向変化した場合オーバーセールになるこれはおよそ17度である。上りレグの時間を15分と見積もって、15分以内に17度以上振れる事はある事はまずない。次に左に8割伸ばした時を考えよう。arctan(2/10)=11.3度なので15分に最大11度振れる事はままある。しかし振れない事もあるので8割まで端に出す事を下界としていいという事になる。実際に伸ばすとき8割以上伸ばすにつれて統計的にリスクが少しずつ増えるという事だ。逆に8割まで出す事はノーリスクである。

 

 5割ほどでカバーという名目で真ん中のブランケットゾーンに突っ込む事はないだろうか? それこそ最も避ける事である。海風の安定した中ではフレッシュをどれだけ走りボートスピード集中時間を増やすかが鍵になる。3要素を考える下で、端に出す事=リスキーというのは迷信に過ぎない

 

2. 快晴&ブロー点在コンディション

 1の場合と違いフリート各場所で異なる風が吹いている。ここで思い出して欲しいのが、シフトはブローについてくるという事である。そのためにはスタート前からどのブローを拾うかペアで話す必要があるのだが、ここで下図も見て欲しい。

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 いくらシフトがブローについてくるといっても、×印をしたようにブローは進まない(笑)。×印のように進むブローは45度風向変化するブローである。しかし海の上では来ると思ってしまうのが事実だ。×印のベクトルを持ったブローはレースにはほとんど影響がない所を過ぎ去っていく事に注意しよう。見るべきブローは上マークを見て右左ぐらいの位置にあるブローだ。そして振れがあるとするならば必ずブローと共に来る。従ってこのブローを捕まえなければ勝つ事は厳しい。といっても晴れた場合は基本的にフリート全体にブローがある事が多いので、そこまで対策がいるという事もない気がする。ブローの動き方だけでは10度以下の振れが分からないというのが正直な感想である。結局ブローに行くか、見えている人を参考にするかだと思う。

 

3. 曇り&全体的にブロー

 晴れてもいないのに海面一面にブローがありオーバーパワー。こんなことが最近よくある。これは秋の気圧配置になるに従って海風+傾度風や傾度風のみの風が吹き、しかも15分以内に10度ぐらい余裕で振ってしまう。ブローも全体的にあるのでブローを拾うという概念も特にない。ではどうすればいいのだろうか。

 風の振りに対して反対海面とのポテンシャル差は

 l*p*sin(s)[Nm]

端に出す割合を p(0 \le p \le 1)、風向変化 s[deg]、 レグ長をl[Nm]

 で求まる。快晴・フリート全体にブローの中、フリート全体が仮に10度シフトした時、レグ長1Nm、80%端に出すと自艇と同様にタックなしの反対海面に対して0.1384Nmのゲインを得られてしまう。これはおよそ250mでありこんなことが起こればボートスピードも何もない(と思っていたんだが有利海面なのにベルチャーには負けました)。

 この時に求められる戦略が北風にも通ずる風軸理論だ。5分おきに風を計測して最も頻度の高い風向を風軸とする(北風は中央値を取ってもいいし最悪本部船のコンパス方位でもなんとかなる)。基本的にはスタート前に決めたこの風軸に従ってデジタルコンパスでリフトを走り続ければ良い。

 リフト走り続ける事による反対タックに対するゲインは、

 v*{cos(45-s)-cos(45+s)}  [m/s]

ボートスピード v[m/s]、風向変化 s[deg]

 である。ジャスト付近の艇速度6ノット下で5度のリフトは毎秒0.37mのゲインを得る事になる。1タック5mの損失としても15秒走ればお釣りが来る。したがって15秒以上走るのであればヘダーに対してタックを打った方がよい。

 風軸理論の要は実はリフトヘダーではなく、風のシフトによる艇団に対してゲインを得られる点だ。詰まる所どちらに風が振るかを統計的に予測し、大勝を狙うという事である。分かりやすいように風軸を220と設定しよう。この時統計的に風の変化は以下のようなパターンが考えれる。

  1. 220→230→240
  2. 220→210→200
  3. 200→210→220 (→230が有意?)
  4. 240→230→220 (→210有意?)

 スタート前に風が200や210としよう。この時風はより左に振るよりも必ず風軸側に戻るはずである。したがってスタート即タック右伸ばしが理想になる。スタート前が230、240の場合は逆だ。

 問題は220とイーブンの時だがこの時は220の前の風を考えよう。すなわち君が220と観測した時の10分前、20分前が上の場合の3と4のいずれであるかという事だ。風軸220というのは自然界ではなく人間が定めたものなので、3のケースのように200→210→220だとすると230方面に振る確率の方が高いはず。しかしあくまで確率の範囲を超えないので、常に走りながらどちらに振っているかは確認した方がよいだろう。レース中は如何にして1,2のカンタンなケースに落とし込むかが重要となる。

 この理論で2上も戦うと面白いように前にいく。ぜひやってみて欲しい。

 

4. 曇り&ブロー点在

 シフトするし、ブローはまばらだし。どうすれば、と思う人は多いがこれはほとんど北風と思おう。そうすると3のパターン+ブローを拾うという意識で勝てる。この場合は2の快晴パターン以上にシフトはブローについてくる。如何にしてブローに入って残りを3のパターンに落とし込むかが重要だと思う。

 方針としてはスタート前に風軸とファーストブローを確認し、ブローまでとりあえず行ってから3の理論を使うといいと思う。ブローが見えない時は3の理論だけでも十分戦う事はできる。

 

まとめ

 今日は南風についてまとめてみた。エビデンスのあるセオリーを使う事が頭を使うという事である。レース中はどうしても迷信に頼ってしまう。さっき左に振ったから次は右に振る、あの人についていけばブローに入る。それら根拠なき迷信ではなかなか勝てない。自分が常に定量的な値からコースを組み立てているのか、振り返る事が必要だろう。曖昧な言葉は不確実性を持ち、それはそのままリザルトになるのがヨットレースである。