とある大学生の勉強メモ

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セーリングのコース理論(海風)

 学生選手としては99%引退した者が夏の最後の大会で見出したコース理論に関して述べる。とりあえずこれやっとけ感がすごいが、様々なセーラーの迷信を科学的根拠でフルボッコにするというものである。

 セーリングのコースを統計と三角関数で読み解く。タック一回は1艇身つまり約5mの損失とか設定しておく。基本的に西宮ヨットハーバーで勝つ方法を述べる。とはいっても大体海風と陸風に大別されるからとりあえず西宮を攻略するのが先決である。その後にうねりとか潮とかその海・湖の特徴を足していけばいいと思う。

 とりあえず南風(海風)に関して書きます。北風(陸風)は後日書きます。お楽しみに。

・南風

 南風なんてボートスピードだよ、という選手は多い。実際ボートスピードが他艇より優れていれば格段に勝ちやすい。スタートを決めてそのままスピードでゲインした後は艇団をカバーしながら走り、一上を回って仲良く直線リーチングを決めれば2マーク回航順位がそのままリザルトになる。レース一か月前にそう言い訳するのはいい。しかし当日になってスピードがないから勝てませんでは何をやってきたんだとなる。一か月練習してもセンスがジュニアには負けるのでなどと言い訳しだしたら100%勝てない。当日に持っているカードで如何にして勝つのか、これが重要なのである。

 南風(海風)に関しては基本的に4つに大別される。それは快晴で地上の上昇気流によって吹く場合か前線・気圧配置による傾度風なのか。そしてフリート全体にブローがあるのか、細々とブローが点在するのかの2要素からなる4通りだ。

  1. 快晴&フリート全体にブロー
  2. 快晴&ブロー点在のアンダーコンディション
  3. 曇り&フリート全体にブロー
  4. 曇り&ブロー点在のアンダーコンディション

 それぞれ考えていこう。今回考えるうえで忘れてはいけない事が一つある。それは上田真聖氏も仰っていた通り、風・マーク・自艇という要素で考える事だ。実際のレースでは他艇がいるので戦術が発生する。しかしコースで重要なのは如何にして他艇を排除して風の動向に集中できるかだと思う。他艇を気にする時間が増えれば増えるほど3要素以外の事を考えなくてはならず、ともすれば最適コースを引きづらくなる団体戦などで初日・二日目などは特に他艇を気にせず走れる方が経験則からしても結果的には良い順位になるはずだ。

 これから話すことは僕の経験や直感・感想ではなく全て理論である。疑うという事は三角関数を疑うという事であり、それは全く意味のない話である。正しいか正しくないかという議論は常に論理の中に閉じているという事をお忘れなきよう願いたい。

 

1.快晴&フリート全体にブロー

 この時急に風は振らない。振るとしてもじっくり振っていく。基本的にフリートのどこも風の強さは同じ。コースなど果たして必要なのか。

 風向は太陽を追う、という基本原理の下、先行研究となる先代松本氏のコースを参考にすればいいと思う。吹き始めの200~210はポートレーラインでリフトが入るので左伸ばしが有効である。スタート後は「前通っていいよー」を連呼しよう。

 ここで焦点となるのはどこまで伸ばすかだろう。9の字コースを取るにあたってここが一番のポイントなので数学的に解説する。

 下図は上りレグの図である。それぞれスタートして端に7割~10割だした時を示している。よく端に出す事が危険な理由として風が振った時に艇団に対して大損する事とそもそも10割出してしまうと自分側に振ったとしてもオーバーセールになり損をするという事が挙げられる。では実際どこまで出せばオーバーセールするのだろうか。

 

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 オーバーセールする危険性は、

 x = arctan(1-p);

if (s \le x) safe;

else if (s \geq x) over-sailing

端に出す割合を p(0 \le p \le 1)、風向変化 s[deg]

 である。機械でもできる簡単な判断基準に乗っ取ればよい。

 さて上図の右に7割出した時を見よう。スタート時の風向に対してarctan(1-7/10)以上の風向変化した場合オーバーセールになるこれはおよそ17度である。上りレグの時間を15分と見積もって、15分以内に17度以上振れる事はある事はまずない。次に左に8割伸ばした時を考えよう。arctan(2/10)=11.3度なので15分に最大11度振れる事はままある。しかし振れない事もあるので8割まで端に出す事を下界としていいという事になる。実際に伸ばすとき8割以上伸ばすにつれて統計的にリスクが少しずつ増えるという事だ。逆に8割まで出す事はノーリスクである。

 

 5割ほどでカバーという名目で真ん中のブランケットゾーンに突っ込む事はないだろうか? それこそ最も避ける事である。海風の安定した中ではフレッシュをどれだけ走りボートスピード集中時間を増やすかが鍵になる。3要素を考える下で、端に出す事=リスキーというのは迷信に過ぎない

 

2. 快晴&ブロー点在コンディション

 1の場合と違いフリート各場所で異なる風が吹いている。ここで思い出して欲しいのが、シフトはブローについてくるという事である。そのためにはスタート前からどのブローを拾うかペアで話す必要があるのだが、ここで下図も見て欲しい。

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 いくらシフトがブローについてくるといっても、×印をしたようにブローは進まない(笑)。×印のように進むブローは45度風向変化するブローである。しかし海の上では来ると思ってしまうのが事実だ。×印のベクトルを持ったブローはレースにはほとんど影響がない所を過ぎ去っていく事に注意しよう。見るべきブローは上マークを見て右左ぐらいの位置にあるブローだ。そして振れがあるとするならば必ずブローと共に来る。従ってこのブローを捕まえなければ勝つ事は厳しい。といっても晴れた場合は基本的にフリート全体にブローがある事が多いので、そこまで対策がいるという事もない気がする。ブローの動き方だけでは10度以下の振れが分からないというのが正直な感想である。結局ブローに行くか、見えている人を参考にするかだと思う。

 

3. 曇り&全体的にブロー

 晴れてもいないのに海面一面にブローがありオーバーパワー。こんなことが最近よくある。これは秋の気圧配置になるに従って海風+傾度風や傾度風のみの風が吹き、しかも15分以内に10度ぐらい余裕で振ってしまう。ブローも全体的にあるのでブローを拾うという概念も特にない。ではどうすればいいのだろうか。

 風の振りに対して反対海面とのポテンシャル差は

 l*p*sin(s)[Nm]

端に出す割合を p(0 \le p \le 1)、風向変化 s[deg]、 レグ長をl[Nm]

 で求まる。快晴・フリート全体にブローの中、フリート全体が仮に10度シフトした時、レグ長1Nm、80%端に出すと自艇と同様にタックなしの反対海面に対して0.1384Nmのゲインを得られてしまう。これはおよそ250mでありこんなことが起こればボートスピードも何もない(と思っていたんだが有利海面なのにベルチャーには負けました)。

 この時に求められる戦略が北風にも通ずる風軸理論だ。5分おきに風を計測して最も頻度の高い風向を風軸とする(北風は中央値を取ってもいいし最悪本部船のコンパス方位でもなんとかなる)。基本的にはスタート前に決めたこの風軸に従ってデジタルコンパスでリフトを走り続ければ良い。

 リフト走り続ける事による反対タックに対するゲインは、

 v*{cos(45-s)-cos(45+s)}  [m/s]

ボートスピード v[m/s]、風向変化 s[deg]

 である。ジャスト付近の艇速度6ノット下で5度のリフトは毎秒0.37mのゲインを得る事になる。1タック5mの損失としても15秒走ればお釣りが来る。したがって15秒以上走るのであればヘダーに対してタックを打った方がよい。

 風軸理論の要は実はリフトヘダーではなく、風のシフトによる艇団に対してゲインを得られる点だ。詰まる所どちらに風が振るかを統計的に予測し、大勝を狙うという事である。分かりやすいように風軸を220と設定しよう。この時統計的に風の変化は以下のようなパターンが考えれる。

  1. 220→230→240
  2. 220→210→200
  3. 200→210→220 (→230が有意?)
  4. 240→230→220 (→210有意?)

 スタート前に風が200や210としよう。この時風はより左に振るよりも必ず風軸側に戻るはずである。したがってスタート即タック右伸ばしが理想になる。スタート前が230、240の場合は逆だ。

 問題は220とイーブンの時だがこの時は220の前の風を考えよう。すなわち君が220と観測した時の10分前、20分前が上の場合の3と4のいずれであるかという事だ。風軸220というのは自然界ではなく人間が定めたものなので、3のケースのように200→210→220だとすると230方面に振る確率の方が高いはず。しかしあくまで確率の範囲を超えないので、常に走りながらどちらに振っているかは確認した方がよいだろう。レース中は如何にして1,2のカンタンなケースに落とし込むかが重要となる。

 この理論で2上も戦うと面白いように前にいく。ぜひやってみて欲しい。

 

4. 曇り&ブロー点在

 シフトするし、ブローはまばらだし。どうすれば、と思う人は多いがこれはほとんど北風と思おう。そうすると3のパターン+ブローを拾うという意識で勝てる。この場合は2の快晴パターン以上にシフトはブローについてくる。如何にしてブローに入って残りを3のパターンに落とし込むかが重要だと思う。

 方針としてはスタート前に風軸とファーストブローを確認し、ブローまでとりあえず行ってから3の理論を使うといいと思う。ブローが見えない時は3の理論だけでも十分戦う事はできる。

 

まとめ

 今日は南風についてまとめてみた。エビデンスのあるセオリーを使う事が頭を使うという事である。レース中はどうしても迷信に頼ってしまう。さっき左に振ったから次は右に振る、あの人についていけばブローに入る。それら根拠なき迷信ではなかなか勝てない。自分が常に定量的な値からコースを組み立てているのか、振り返る事が必要だろう。曖昧な言葉は不確実性を持ち、それはそのままリザルトになるのがヨットレースである。